ゴルフ界貢献を目的に設立 |
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佐藤 日本のゴルフの発展を目的に日本ゴルフコース設計者協会が発足して16年になります。協会設立から今日までゴルフ業界は大きな様変わりを見せましたが、わが国に限らず世界のゴルフが変革期を迎えているように思われます。
我が国のゴルフは今後どのように変化していくのか、また変革しなければならないのか。本日は設計者協会の歴代理事長を務めてこられた皆様にご出席を頂き、これからの日本のゴルフコースのあり方などゴルフ界への貴重な意見を頂くため、座談会を企画させていただきました。
それではまず最初に設計者協会の役割と日本のゴルフ場の将来像について、お話しいただきたいと思います。
1980年代の高度成長によって日本のゴルフ界は大きな飛躍を遂げましたが、その後のバブル崩壊でゴルフ界は大きなインパクトを受けました。設計者協会はそのバブルを過ぎた中での発足でしたが、協会設立の趣旨・経緯・目的などについて、発起人としてまた初代の理事長も務められた加藤先生にお聞きしたいと思います。
加藤 ゴルフが盛んな国にはどこでも設計者の協会がありました。日本にもそれを作りたいと考えたのは、そういう協会に所属する人からほとんど同じような答えが返ってくる。一つの論理のもとに会が運営されていると感じました。ですから、日本も設計者がしっかりと論理を構築する必要がある。人によって全く異なる返事が返ってくるのは問題ですから、設計者同士勉強して切磋琢磨し、ゴルフ界の役に立ちたいというのが最初の趣旨でしたね。理論構成を主体に考えるということで、亡くなられた経験豊富な金田武明先生のご意見を頂きながら、二人で基本を作りました。当時ご活躍の皆様にお声をかけるだけでなく、ジャーナリストや気象学者など専門外の各界で活躍している方まで入れるような幅広い会を作り、自ら勉強してゴルフ界に貢献したいというところから始まりました。
佐藤 当初は専門職の集まりだったと思うのですが、途中からゴルフ界の活性化やゴルファーの育成など協会の趣旨が幅広く変化し、もっと広範な方々に参加いただこうということになりました。大西理事長の時代でしたが、その辺りのお話をお聞かせください。
大西 加藤さん達が始められたときは、将来の設計家を含めグレードや技術の向上に大きな目的があったと思います。ゴルフコースがなければゴルフはできないし、そのフィールドを作る原点の仕事ですからね、当然そうなる。しかし残念なことに1993年以降、ゴルゴルフ界はバブル崩壊の不況で新たにゴルフ場をどんどん作るという時代ではなくなった。それで加藤さんの最初の趣旨に、背景が合わなくなってきたということです。要するに、新しい設計が次々に出てきてどんどん勉強するような状況ではない。だから私は一番ゴルフのことがわかっている設計者、特に金田さんのような欧米を含めて知識豊富な方が日本にゴルフの本質を知らしめていく、それが非常に大事だと思うようになりましたね。
佐藤 2代目の金田先生のあと、理事長を務められたのが小林先生でした。時代的にゴルフ場建設は激減していたと思いますが。
小林 ですから協会そのものが勉強していく状況ではなくなってしまい、協会の存続自体も厳しい状況となりました。本来我々が仕事をしながら、若い人たちに技術的なことを伝えていかなければならないのにその仕事すらなく、ゴルフ場とは何か、設計とは何かを伝えることも出来なくなりました。
佐藤 そのころ小林先生には、協会維持のために賛助会員の獲得に大変ご尽力いただきました。
小林 ゴルフ場やゼネコンに、何とか賛助会員になっていただこうとお願いして回りました。何せ協会にお金がありませんでしたから。その10年前に協会が設立されていればまだ順調だったと思います。当時なら協会もお金が出来たでしょうし、設計をやろうという人間もいました。しかしそんな時代では設計者を目指す人もなく、設計者になっても仕事があるのかという話になるわけですね。だからその後をどう進めていくかが非常に問題でした。
ゴルフの啓蒙と普及 |
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佐藤 そして今ゴルフ場は変革期を迎えています。そこで設計者協会が今後進むべき道やゴルフ界のあるべき点などについてご意見をお聞きしたいと思います。
大西 ポイントはやはり今のゴルフ界をどう改善していくかということでしょう。日本は欧米と比較して本当のゴルフのあり方、ゴルフの精神や歴史などがあまり理解されていない。その啓蒙も我々の重要な役割です。その点ゴルフに熱心な協力会員に色んな機会に理解を深めて頂き、周囲の人に知識を広めてもらえるのは非常なプラスだと思います。
佐藤 加藤先生どうでしょうか?
加藤 日本にこれ以上ゴルフ場が増える可能性はありません。すると新規ゴルフ場の建設ではなく、今あるコースを時代に合わせて変化させていく。つまり改造ですね。世界の古い名門コースの多くは、大変な改造の歴史を持っている。日本も最近ようやくいい意味での進歩的な変革の時代に入ってきました。ゴルファーの挑戦意欲を高めたりゴルフそのものをエンジョイするなど、きちんとした改造のコンセプトがあれば、設計者協会としても大いに協力できると思います。まだ大きな流れとはいえませんが、その動きは加速しています。ゴルフの良さは何なのかをアピールしながら、改造に取り組む人達の手助けをしていくことも、協会の運動としてひとつのスタンスだと思います。
小林 まあ私も以前はあちこちで、ゴルフ場についていろいろ話をしてきました。ただゴルフは本来スポーツなのですが、協会の視点とは異なり、スポーツから離れた視点というものもあります。やはり考え方はみな違う。それは違って当然ですけれども、スポーツとして考えているのはゴルファーの1%しかいない。残る99%はゴルフらしいことはしているが、スポーツとは考えていない。ゴルフは競技なのか遊戯なのかと考えた場合、99%の人は遊戯でゴルフ場は遊ぶ場だと考え、残りの1%の人だけが競技として考えている。だからゴルフを協会としてどういうものにしていくのかを考えていかなければならない。設計者はコースを提供する側ですからね。
大西 小林さんの言う遊戯とはいわゆるレジャーですね。ただ他のスポーツにも競技者がいればレジャーでやる人もいて、あまり分ける必要がないと思いますね。
小林 それを言いたかったのです。ゴルフに限らず野球にしても、昔はキャッチボールを毎日のようにしていましたが、今はそういう光景は見られない。離れているのですよ、野球から。ゴルフもそうなのです。ゴルフを競技として考えると、ゴルフ場は1%の人のものになってしまう。しかし我々は設計者として、残る99%の人が楽しめるゴルフも考えてやらなければならない。そういう場を提供していかなければならないと思います。
用地選択から大土工時代に |
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佐藤 ここでコース設計の変遷についてお話を伺いますが、日本の100年あまりのゴルフの歴史の中で2,400のコースが誕生しました。それらのゴルフ場は時代のニーズに沿って造られ、時代とともにコース設計も変化してきたと思います。そこでまず1930年にアリソンが来日して我が国のコース設計の基礎を築きました。その時代の設計の特徴について小林先生にお聞きしたいと思います。
小林 まだ私1歳ですよ(笑)。
大西 まずその前に、昔の設計家はいいゴルフ場にするための用地選択をきちんとしている。日本を代表する井上誠一さんや上田治さんも適地を選んでゴルフ場を造っていますから、いまだにほとんどが名コースと言われています。しかし昭和30年代以降、ゴルフが盛んになったころから、適地じゃないところにもゴルフ場を造成しています。最初のころはどこも造成技術はレベルが低いのですが、設計以前に用地選びに問題があって、それが乱開発などのゴルフ批判に繋がった。そういう用地の問題が設計の前にあると思います。
佐藤 ゴルフブームといわれた1970〜80年代は、年間100コース以上が建設されている。元々アリソンの設計図が一つのお手本だったわけですが、ブームになって設計思想は大きく変わったということですね。
加藤 それはもう大変化ですね。昭和30年代後半にアメリカから大変大きなブルドーザーが持ち込まれた。大量に燃料を食う代わりに大変な量の土を動かせる。そうなると大西さんが言われるように、土地の選択は用地面積さえあればどうにでもなるという大土工時代に入ったのです。昭和47、48年ごろにはどんな場所でもゴルフ場が造成できるようになった。我々はそういう時代に設計の仕事を始めたのですが、逆にいえば今までの設計者の能力では出来なかったのですね。土地の持つ高低差や傾斜を読まないと出来ない時代となり、非常に工学的な分野が広がっていったのですね。
佐藤 今日本には2400のゴルフ場があり、不況の影響で大変な価格競争を展開中です。中でもご指摘の地形を選ばないで作られたコースは、設計上の問題もあって経営危機に直面しています。これらのコースにとって改造や改修が必要な時期に来ているのではないかと思うのですが。
大西 バブル前に約1、700のコースがあり、バブル以降つまり1990年以降に700コースがオープンしました。要するに経済が下降線に入ったとき、つまり需要が下がっている時に供給が増えていったんです。一般的には需要が下がれば供給は止まるものです。ゴルフ場はそれができず供給過多となって、淘汰される時代に入った。その背景を捉えて色々考えなければならないですね。
加藤 今大西さんの言われる時代のちょっと前頃から、金儲けの手段としてゴルフ場が使われるようになりました。ゴルフ場を造って会員募集すればかなりのお金が集まる。それが需要は減ってもさらに何百も増えた理由ですが、それこそ非常な問題でした。アリソン達がリードしたゴルフ場の本来の意味も、企業の金儲けに使われるようになって変わってしまったのです。自己資金もないのに無理して造り、その支払いは会員募集で当てる。だけどそれはいつまでも続かないから、最近のような倒産が増えたのでしょう。ある程度余裕があるところが代替わりをしてきましたが、そんな企業もだんだんなくなってきました。
タフなコースがプロを育てる |
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佐藤 ゴルフコースが淘汰されていく中では、コースの選別という問題も出てきます。コースの改造や改修も含めていろんなものを変えていかなければなりません。
加藤 ゴルフ産業を活性化し明るい業界に変えていくことが大切です。そのためにはプロ、世界で活躍するプロを育成すべきです。私の持論ですが、それにはもっとコースの数ではなく内容を持ったコースを作り、普段からそういうところで練習し精神を鍛え、そして世界に出て行って活躍する。それが産業活性化の一番の近道です。その意味で改造によりタフなコースに変えていかないと、世界のメジャー大会と大きくズレてしまい、精神的にも世界で活躍できるプロは育たないと思います。
大西 さっき小林さんが言われたように99%がレジャー志向で、その人たちが楽しく遊べなくてはならない。一方僕はトーナメントを中心にゴルフ界を広げるという意識でやってきた。一般的には、トーナメントコースがいいコースと思われています。するとオーナーはだれもが、どんな地形でもチャンピオンコースを作れと言う。それでタフなコースがよいコースというイメージができてきましたが、多分小林さんはレジャーとしてやる人はそういうコースでは困ると言いたいのではないでしょうか。
小林 さっき加藤先生がタフなコースがいいと言われましたが、プロトーナメントを見に行くならそのほうが盛り上がる。しかし自分でやるゴルフというのはまた別なんですね。99%の人のゴルフはそういうものではなく、良いスコアが出たら満足するという程度。もちろんタフなコースでプレーしてみたいという気持ちはあるでしょうが、普段はブランドものでなくてもゴルフができればいい。どんなコースでも18ホールあって、長くても短かくてもそれで満足して帰っていく。料金が安かったらいいと。ただそこに問題もあるんです。低料金戦争になったら、お互い共倒れの危険も出てくる。ある程度の金額を維持して価格競争するよう経営者は考え直すべきです。極端な例では食事付きで5千円を割っているケースもあるんです。
大西 そういうコースはやむを得なくなっているんですよね。
小林 改造の話も同様ですよ。確かにタフなコースが良い選手を育てる基本ですが、そうではないコースのことも考えてやらなければなりません。改造するお金もない、いくら我々が改造しようといったって無理な話なのですよ。
大西 もう一つ。例えばトーナメントコースでいえば加藤さんの太平洋C御殿場コース。ここはプロの評価も高く、年間通じて多くのゴルファーがプレーに訪れビジネスとしても成立しています。一方で小林さんのおっしゃるレジャー用のコース。変に易しいと言われると、妙なところで難しくしようとする。実際の距離より長く表示したり、余計なところにバンカーを造ったり。で、最近相談を受けて行ったケースでは、本来コストをかけて改造なんて出来ないんだけど、わざわざ難しくして客を減らしている。これは大変もったいないことです。チャンピオンコース足り得ないコースまでチャンピオンコース願望があるというのは、僕はまずいと思うわけです。
佐藤 改造の話が出ましたので、新時代のコース設計に話題を進めたいと思います。(以下次月)
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