『常緑の芝』を追い求めて |
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ベント芝グリーンの普及率は全国で90%を超え(一季出版調査)、地域もどんどん南下して九州でも珍しい存在ではなくなった。ベント芝の歴史は1888年にスコットランドからサウス・ジャーマンベントグラスが米国に持ち込まれ普及した。病害発生などによりベントグラスの開発が急務となり1923年にココス・ベントグラス、シーサイド・ベントグラスが発売された。1955年にはペンシルベニア州立大学でペンクロスベントグラスが開発された。日本に入ってきたのは1964年、神奈川県のスリーハンドレッドのグリーンにコース設計家、故宮沢長平氏が米国から輸入して播種したのが始まりであった。
1900年開場の日本初のゴルフ場、神戸ゴルフ倶楽部のグリーンは芝生ではなく土を固めたサンドグリーンで、芝生に変わったのは1925年である。また東京ゴルフ倶楽部のグリーンも当初はサンドグリーンで、その後コウライ芝に変わった。
日本におけるベント芝の研究は、丸毛信勝農学博士(昆虫学者)がゴルフコースのコウライシバを研究し、ベントグラス、ライグラスの試験培養をされたことに始まる。その影響を受け『常緑の芝』への挑戦が始まったのは、東京ゴルフ倶楽部の相馬孟胤子爵が1929年にgreen committeeの1人として、グリーンのターフを良くするための義務を負ったことによる。当時はコウライ芝のグリーンであったと記されている。ゴルフ場の黎明期で芝草の知識、管理技術も手探りであった時代に、日本の気候風土に合わせ冬の芝枯れ時期に緑を保つウインターグリーンの歴史が始まったのである。以後、サマー、ウインターの2グリーンを採用するコースが多くなった。
異常気象 |
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2008年と2010年は記録的な猛暑であり、とにかく暑かった。異常気象のメカニズムは解明されていないが、地球温暖化現象の現れとされ、上空の偏西風による影響ともいわれている。ゲリラ豪雨に見舞われた地域もあったが、神奈川県東部では2008年の猛暑は7月中旬から8月にかけ45日間、2010年は8月中旬から23日間雨がなく、ゴルフ場は芝の散水に追われた。しかも2010年は記録的な真夏日を記録しゴルフ場に多大の被害をもたらした。特にベントグリーンへの影響は九州地方から東北地方まで広範であった。逆に夕立を含め雨量が多く加湿による被害が出た地域もあった。
ベントグラスのグリーンはなぜ夏に衰退するのか |
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ベントグラスは寒地型の芝生であり生育は茎葉部15〜24℃、根部10〜18℃が適温であるといわれている。夏場の気温が30℃を超える状況は、ベントグラスにとって大きなストレスとなる。夏に突入する前に実施するコアリング、バーチカルカット、サッチングなど更新作業が適切(深さ、径など)に行われないことにより通気不良、排水不良が生じ過湿、散水過多による根腐れ、塩類濃度の上昇などにより芝の根が浅くなり気温が高くなると耐えられなくなって衰退がはじまる。加湿とは反対の原因として散水不足(自動散水機器の故障、マウンドなど高い場所の散水量の不足など)、ドライスポットによる乾燥害などがある。また、ピシウム菌による病害により枯損することもある。
酷暑に耐え切れなかったベントグラスのグリーン |
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ダメージの程度にもよるが芝を回復させるには休ませることが一番である。2グリーンなら可能であるが1グリーンの場合には営業に支障が出ないように対策をとることになる。芝の養生期間を短くする(早く使う)ためにはソッドで張替える方法もあるが、自社ナーセリも当然被害が出ていることが多く、数量が確保できずやむなく業者から購入することになる。
ソッドで手当てできる芝はペンクロス種で、ニューベントと呼ばれる芝はほとんど栽培されていないのが現状である。芝が手当てできない場合は種子を播くことになるが使えるまでの養生期間が4〜6カ月かかる。酷暑にかかわらず毎年のようにベントのソッド芝と種子が不足しているのが現状である。今年は1面だけで済んだと反省もしないでただ復旧するのではなく、原因を追究し改善しない限り毎年同じ過ちを繰り返すことになる。
夏季のトーナメント |
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最近のトーナメント開催コースの多くはベント芝グリーンである。トーナメント開催コースを選定するに当たっては、地域と時期を考慮する必要がある。2010年に限らないが、夏季のプロゴルフトーナメント中継でグリーンはまだしもフェアウェイ、ラフが茶色く映っていたのを記憶されている方も多いであろう。
トーナメントを開催するゴルフ場は、コースコンディションを確保するため2〜3年前から準備に入る。夏場であってもグリーンの刈り高、固さ(コンパクション)、速さ(スピード)が要求される。そのことがベント芝に必要以上のストレスを与え、さらに苦手な高温ストレスが加わり衰退する。グリーンのコンディションは数字で発表されるためゴルフ場も必要以上にがんばってしまう。フェアウェイやラフは雨が降らず日照りが続き、昼間は無論のこと一晩中水撒きをしても焼けてしまうことがある。ゴルフ場によっては散水用の貯水量が想定を超えたために、不足し撒けないところも出てくる。
プレーヤーのニーズ |
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日本の風土に合ったコウライ芝のグリーンは減少の一途をたどっている。しかしながらすばらしいコンディションのコウライグリーンで営業しているコースもあることを忘れてはいけない。ただ、プレーヤーが速くて転がりの良い常緑のベントグリーンを望んでいるのは確かだ。
総論 |
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1グリーンか2グリーンかは議論を呼ぶところである。筆者も1グリーンに反対するものではない。しかしながら2グリーンを全否定するつもりもない。2グリーンはかつてコウライとベントの組合せが主であったが、1グリーン化に向けての過渡期として2ベントが増えている。しかし夏場はこれが、管理する立場からすれば重要なのである。夏越しの準備としてグリーン面に穴を開け、通気や透水の向上を図るなどの更新作業と養生期間を充分に確保できるからだ。グリーンの地下構造(USGA方式など)のサンド化、ベント芝の品種改良(ニューベント種)、管理技術などでかなり改善されてきてはいるが、まだまだ試行錯誤の状態であろう。無理してベント芝にする必要はなく、バミューダグラス、コウライシバもあるではないか。それぞれの地域の気候風土に合った芝で、状態良く管理されたグリーンであるべきであろう。 |