昨年3月、世界ゴルフコース設計者会議がセントアンドリュースにおいて行われ、日欧米豪の各設計者協会員がゴルフのすべてについて討論する会議に参加する機会を得た。
その時セントアンドリュースオールドコースで一緒にプレイしたポール・モグフォード(Paul Mogford)氏が、経済に対する影響を考慮した設計を豪州設計者協会代表の1人としてプレゼンテーションを行った。
彼は私と同様アリスター・マッケンジーの理論に対して共鳴しており、暖かくなった折オーストラリアを訪問し意見交換を行うことを約束した。
今回このロイヤルメルボルンGCの視察プレイでは、まさにマッケンジーが目の前で解説してくれているかのように、彼の設計思想を肌で感じることができた事は非常に意義深いものであった。
ポールは「一般のコースではフェアウェイの真ん中にショットすればいいのだが、ここは違う。本当にストラテジックなコースである」と自慢していたのが印象的であったが、まさに80年前の設計思想が今もなお生きていることを感じられたことに嬉しさを覚えた。
ロイヤルメルボルンゴルフ倶楽部の歴史
当初のロイヤルメルボルンゴルフクラブ(RMGC)は現在の位置よりメルボルン市街地方向へ10・ほど離れた所にあり、セントアンドリュース出身のトーマス・フィンレー(ThomasFinlay)とデビッド・コナチャー(David Conacher)によりレイアウトされ、1891年にオープンした。しかし、コース周辺の住宅化のため、わずか10年後(1901年)には新たにサンドリンガムGC(現在のRMGC隣接コース)周辺に移動し新たなコースをオープンした。
そののち1905年には時の女王ビクトリアよって“ロイヤル”の名を冠することが認められた。
ところがその後も、サンドリンガム区域は更に開発が続けられきたため、クラブハウスの移動とコースの新設気運が高まり、1926年英国スコットランド出身のアリスター・マッケンジー(Alister MacKenzie)が新しいコースの設計者として選ばれる。
現在のウェストコースは工事着手までの間、マッケンジーにより入念に練られた設計の元で、1931年に近代的コースとして生まれ変わった。
オーストラリアンオープンの優勝者でもあるアレックス・ラッセル(AlexRussell)はA・マッケンジーの深い信頼を受け、オーストラリアにおけるパートナーとして彼の元で働きながら設計技術を学びイーストコースの設計者となる。
1959年、ロイヤルメルボルンゴルフクラブがカナダカップのホストコースとして選ばれた時、選手やギャラリーが道路を横断するのを避けるため、ウェストコースから8〜9番と13〜16番を除いた12ホールにイーストコースの1〜4番、17〜18番の6ホールを加えてトーナメント用コースを選抜した。その後このコースはコンポジットコース(複合コース)とよばれ、多くの主要なトーナメントはコンポジットコースで行われてきた。しかし、今年予定されているプレジデントカップでは、ウェストNo.3からスタートしWNo.4、No.5のあとイーストNo.17〜18、ENo.1〜2を経て再びNo.6〜12とウェストに戻り、途中WNo.13〜16をカットしてWNo.1が17番、WNo.2が最終18番ホールとなる選抜コースで開催される。
アリスター・マッケンジーの思想
A・マッケンジーの戦略型理論は、すでに本紙で大塚和徳氏によって紹介されているが(2010年4月1日発行)、改めてロイヤルメルボルンゴルフクラブをプレイしてみてその優れた設計論を実感した。
A・マッケンジーは1914年、米国のゴルフ雑誌における「理想のツーショットデザインコンテスト」に優勝したのをきっかけに本格的にゴルフ設計の道に入り、「ゴルフは上手な人も下手な人も皆が楽しめること。努力挑戦意欲もあり、技術を持っている人のほうが、より良い結果につながるコースであるべきだ」という設計理念を、1920年発表のコース設計論の中に著している。
さらに「自然を残し人工的なものは最小限に留め、美しく挑戦的であるべき」とし、「コース攻略には複数の攻略ルートがある、そのルートにはハザードが存在し、そこに挑戦したプレイヤーには報酬を、避けたプレイヤーにはストロークのペナルティーを与える。また、グリーンは、自然の大小の波のような形状の中にも、比較的平らなスペースを保ち、スロープにカップを切ることがないようなグリーンにするべきである」と書かれている。
フェアウェイにおいては、「一般的プレイヤーは、フェアウェイは平坦であるべきと考えるが、全てのショットを平らのフェアウェイから打つことほど単調なものはない、あまりきついサイドスロープは問題であるが、左右の適当なスロープはショットスキルを求めるのに必要不可欠である」としている。
A・マッケンジーのデザインしたサイプレスポイントGC(1928年)、ロイヤルメルボルンGC(1931年)、オーガスタナショナルGC(1933年)は、現在世界を代表する名コースとなり、彼の思想を立証している。
戦略型設計ホール
写真-A、6番ホール
391m、パー4
やや砲台のグリーンである。
グリーン設計において、平らでなく波のようにと唱えているように、グリーンは大きくうねり、グリーン奥へ波が消えていくように下がっている。グリーンの傾斜はそのアプローチショットに対し、さまざまな種類のボールを要求している。
グリーンでのパッティングに設計の妙味が感じられる。
写真-B、15番ホール
434m 短いパー5
第1打のショットが重要な意味を持つ。
ベストルートは右サイドのバンカー越えルート。左サイドに避けた場合はグリーン手前バンカー越えルートとなる。いずれもハザード越えのリスクを伴う、まさにリスクとリウォードである。
第2打でグリーンを捕らえることが出来るが、グリーンが三方向に鋭く傾斜している戦略的なホールである。
写真-C、17番ホール
401m 長いパー4
マッケンジーの設計思想通り、第1打のランディングエリアがフェアウェイ左側バンカーより右側に傾斜しており、グリーンエリアは逆に右側より左側に傾斜させ、ショットスキルを求めたホールである。
戦略型コースへの改造
スコットランド出身のマッケンジーの手によって造られたロイヤルメルボルンGCはブッシュの配置、深いバンカーの造り等が英国、特にリンクスの造りによく似ている。
またこの土地は海に近いせいか排水が非常に良いため、コース内に排水桝の類は見られない。
そういうところもリンクスの造りが生かされた要因の一つであると思われる。
各ホールは短めではあるが、1ホール1ホールインパクトのあるホールが続き、まさに1打1打を考えながらプレイしなければならない戦略型のコースである。
日本のコースは排水、地形に恵まれたコースは少ないが、現在このような深いバンカー、波のようなグリーン、ブッシュの配置などを日本で設計すれば、一般プレイヤーからはひんしゅくを買うかもしれない。
近年、古く伝統のあるコースが改造に着手しているが、外国人のデザインにゆだねるだけでなく、我々も切磋琢磨し倶楽部の理解を得ながら日本の戦略的コース造りに寄与していきたい。
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