改造設計/ ブライアン・シルバ
造形シェイパー/ カイ・ゴールビー
日本のゴルフ場界も成熟期を迎え、問題を抱えたコースの改造が話題を呼んでいる。高麗グリーンのベント芝化、または2グリーンの1グリーン化改造と世界レベルのコース造りに邁進している。そこで、日本ゴルフコース設計者協会の会員から意見を集めて、改造設計のあり方を検討したい。
1930年創設の我孫子GCは赤星六郎設計で、クラブ創設83周年を期して2012年10カ月間コースをクローズし、ワン・グリーン化改造に踏み切った。改造・改修設計は米国人設計家、B. シルバ(1953〜)で、このリノベーター選びには戸張捷氏と富田浩安理事長が携わった。
シルバが指名したシェイパーのカイ(1965〜)はマスターズ・チャンピオン、ボブ・ゴールビーの息子で夜明から日没まで現場でブルに乗ったという。
この春、正式にグランド・オープンして世間にお披露目した。
Q1. 18ホールのグリーン改造の印象について
<佐藤謙太郎・副理事長>
大変に素晴らしい出来上がりで、2グリーン時代よりもターゲット・エリアが絞られた。特にグリーンを狙う際にはグリーンの形と勾配を知って攻める必要がある。例えば1番グリーンがTレダン・タイプ型Uなら2番はT逆レダンUとなって攻略ルートが明確になった。
(編集部注=TレダンUとはスコットランドの名リンクスTノースバーウィックGCU15番・パー3ホールの愛称で、右手前から左奥へ縦長のグリーンが斜めに置かれるパターンをいう)
<杉本昌治・正会員>
違和感なく1グリーン化に成功している。ターゲットが次第に狭くなるセオリー通りで、戦略性・景観とも向上した。
特に5番(381ヤード、パー4)などは周囲のマウンドからグリーンにコンターが流れ込み、中央の尾根がグリーンを2等分する。距離の短いパー4の手本となる造形だ。
<林弘之・理事>
改造前の廣野GCに似た造形の印象で、すべて良い。ただし、コンターが強く、ホール・ロケーションをとる場所が限定される心配あり。2グリーンを1グリーンにすると大味になりやすいが、引き締まった造形になった。
<川田太三・理事長>
名コースの改造はグリーンだけでも難しいものだが、B. シルバの造形は個性を発揮しながら赤星六郎の味わいを残した良い仕事だと思った。我孫子GCの理事や会員がこの改造にコンセンサスを共有した結果だと思う。後はどれほどの歳月でグリーンが自然に融けこむか?を待つだけだ。
Q2. グリーン周囲のバンカー、フェアウェイのバンカー造形について?
<佐藤謙太郎>
バンカー造形はアメリカン・タイプでマウンドとともに三次曲線を駆使した姿に好印象を持った。日本人シェイパーにはない感覚だ。ただし、バンカー・エッジのアゴの芝生処理が時の経過で、荒れやすいのでは?と思った。
また例えば、13番(184ヤード、パー3)のグリーン手前のバンカーは見た目にラインが見え難く、もっと強調されていい。
<杉本昌治>
景観バランスと造形が日本人好みで美しい。ただし、アゴの形状が統一され過ぎで、もう少し変化のある形が欲しいと思う。
<林弘之>
バンカー造形はJ. ニクラス風で、人工的な曲線を排している。風雨に晒されて出来たような自然なラインで、設計者の意図を感じる。
<川田太三>
バンカーの位置と造形はB. シルバ本人の最も意識した点だろう。戦略ルートとバンカーの見え方に設計者本人の自己主張が入っているはずだから。
Q3. 平均485平米(最大1番の573平米、最小17番の287平米)というグリーン・サイズについて?
<佐藤謙太郎>
グリーンに添えたマウンドが複雑なコンターを生んでいる。グリーンとマウンドが一体化されているので、実際より大きく見える。ピンの位置によってはマウンドを利用して攻める必要があり、実際のターゲットは狭くなる。コンターを計算に入れて打たないとピンに寄らない設定は面白いし、アメリカン・タイプのグリーンの醍醐味だと思う。
<杉本昌治>
アンジュレーションのキツさからいえば、600平米は欲しいが、コースの歴史、風格、景観からすれば自然な大きさなのだろう。
<林弘之>
18個のグリーンを通じて一つの個性で統一して欲しかった。一つのキャンバスにピカソとゴッホが絵を描いても傑作にはならないと思った。
<川田太三>
まったく問題ないサイズ。選ばれた芝種TシャークUは高麗芝と違って踏圧による摩耗の心配はない。風景のバランスとも丁度良い大きさだ。これで、問題が生じたら、そこだけ直せば良いだけだから。
Q4. もう少しこうしてほしかったと思うホールは?
<佐藤謙太郎>
やはり13番のパー3ホール。左手前から右奥に長いグリーンは良いのだが、手前のバンカーの見え方が甘いと思った。もっと強調して欲しい。Tパー3ホールはコースの顔Uなのだから。
<杉本昌治>
13番ホールのグリーン前の窪地に池があるが、ハザードとしての役割は薄い。もう少し拡大して水位を上げたり、強調して欲しい。
<川田太三>
赤星六郎の原設計では第2打の戦略性がキツイと思っていた会員が多かったのか、改造で攻略ルートの選択肢が増えたと思う。これはクラブ側の要求なのだろう。
ただし、3番(195ヤード、パー3)のように、昔は右からの迂回ルートがあったが、アベレージ・クラスにはワン・オン至難なバンカー配置になっている。他にもシビアなグリーンが散見された。
しかし、それもクラブ側の意向だし、会員側が賛同した結果。B. シルバの改造デザインにコンセンサスを共有し、価値観を同じくした結果だから、他者のもの言う余地はないと思う。
他には「赤星六郎のテイストが消えて、すべてがアメリカン・タイプになってしまい、83年のクラブ史が途切れてしまった」というような悲観的意見もあった。
しかし、本誌の「21世紀ゴルフへの提言」でB. シルバの改造について寄稿した戸張捷(理事)は改造の成功要因は「彼と信頼関係を築きながら作業を進めた現場スタッフと倶楽部側の姿勢もまた成功の大きな要因だったろう」と述べている。
名コースのグリーン改造設計の作業には設計者とクラブ側の共同作業であることが再確認されたようである。
(文責・西澤忠・名誉協力会員) |