原設計/ 富沢誠造
改造設計/ 横山良
府中CCは昭和32年、カナダ杯(現ワールド杯)日本の団体・個人優勝で始まった第一次ゴルフ・ブームで生まれた多摩丘陵の老舗コース。昭和34年開場で、続く翌年に桜ヶ丘CC、36年よみうりGC、東京国際CC、37年多摩CC、38年相武CC、39年東京よみうりCCと多摩川を越えた丘陵地にゴルフ場が量産された。府中CCはその先頭を切ったリーダー的存在で、平成21年に創設50周年を迎え、半世紀を超える歴史がある。
設計はコース管理部門から設計家になった富沢誠造で、昭和26年川崎国際CCで井上誠一の設計助手になり、設計家として独立して千葉CC川間Cの開場が32年だから、その直後の作品となる。当然なことに当時はベント芝と高麗芝のツー・グリーン(メインは高麗グリーン)。東京都心に近い丘陵コースとしての年輸を刻んだ。
その後、昭和46年にはプロ・トーナメントのJALオープン開催(D. グラハム優勝)、47年には会員による3,050本の桜の苗木植栽などがあり、平成4年には時代の要請に従ったワン・グリーン化改造を行った。しかしながら、専門の設計家を起用せず、かつ、営業を続けながら改修工事を行ったということもあり、ツー・グリーンを一つに繋げた造形は横長グリーンが多く、傾斜面が強く、排水(TGカリフォルニア方式)やガードバンカー造形の問題も浮上していたわけである。
そこで、グリーン周りを含める大幅な改修工事を、平成26年1月から約6カ月間コースを閉鎖して敢行、7月中旬から仮オープン、10月から本オープンをして今日に至った。
設計を担当したのは茨城GC東コースのワン・グリーン化設計を実行し、第78回(2013年)日本オープン開催を成功させた横山良(安達建設)で、このプロジェクト開始に至る道筋をつけたのはJSGCA(日本ゴルフ場設計者協会)であった。
コース改修の主な狙いは、(1)正規なワン・グリーンの新設で、富沢誠造設計の意図した戦略性を回復すること。(2)急傾斜のグリーン勾配を見直す。バンカー数を減らす。(3)改修費用を4億円以内にするなどであった。
このテーマに取り組んだ横山良氏、クラブから徳永精二キャプテン、松野眞三理事の3氏に話を聞いた。
……7月中旬からの仮オープン、10月からの本オープンを経て、メンバー諸氏のニュー・グリーンへの感想はいかがですか?
徳永キャプテン コース景観がスッキリし、イメージが変わったと評判は上々です。これまでは府中には池がなかったのですが、雨水の貯水池を兼ねたウォーター・ハザードが4番(402ヤード・パー4)と13番(385ヤード・パー4)に生まれましたから。
横山氏 それと余計な林の伐採で、グリーンへの日照を確保でき、コース内の造形がスッキリよく見えるようになったことも大きい。
松野理事 古いメンバーはコース内の樹木に愛着がある。樹はコースの財産と考える日本人らしい発想でしょう。2012年全米オープンを開催したオリンピック・クラブが樹木を3,000本切って話題になった。
横山 3,000本といっても全体の5%位だと目立たないが、グリーンに日陰をつくる日照の問題、雪解けの時間を考えると大きい。
……池の出来たホールの評判は良いらしいが、ボールを入れる頻度は?
松野 フォーサムで1人は入れる。見える範囲は拾いますが、深い所はそのままなのでいずれボールの山が出来る(笑い)。
横山 池のウォーター・ハザードはグリーンの右と左に置きたかったが、スペースの問題で2ホールとも右手前になってしまった。それと、大きさはグリーンより大きくしないと“水溜り”に見えてしまう。その点、4番は巧く入りました。グリーン面積600平方メートルに対して920平方メートルになりましたから。
反対に反省材料は13番です。グリーン右側に道路とOB線が迫るので、大きく取れない。600平方メートルのグリーンに対して530平方メートルの小さい池になってしまった。グリーン左手前に置きたかった池ですが、スペースがなかった。
……新設のグリーンの考え方は?
横山 以前のグリーンは形も傾斜も不自然なところがあり、横長な形に5〜6%の受け勾配が多かった。バンカーも90個位あって多かった。それを平均600平方メートルの面積で、4〜5カ所のピン・エリアは2%以内の勾配にした。今のバンカー数はフェアウェイを含めても60個と少なくなった。
そもそも富沢誠造設計の戦略性を復活させ、花道から転がって乗せる攻め方も出来るようにする。つまり、“強きを挫き、弱者を助ける”というのが私の方針です。上級者に難しく、初級者にプレーして愉しいが狙いです。
徳永 クラブ競技の成績をみてもAクラスの月例はスコアが悪く、Bクラスはアンダーが出る。でも、Bクラスの人達もハンディが上がって、いずれ苦労するはずですが。9月にJGAのコース査定を実施しましたが、距離は200ヤード伸びただけで、以前の「72.4」が「72.9」となりました。
富沢誠造のデザインは井上誠一の教えもあって、基本に忠実なレイアウトだった。
622,208平方メートル(約19万坪)の敷地面積に巧く18ホールを配置している。それもアウト9ホールは時計回りの右方向、イン9ホールは逆の左回りと公正を期すための教科書通り。敷地内の高低差が40mあるし、尾根や沢のあることを考慮すると、ホール配置はギリギリだったろう。実に見事なルーティングである。
……ニュー・グリーンを見ると段差のあるグリーンが多かった。この意図は?
横山 池のあるグリーン、4番と13番の例でいえば、基本的に受け勾配ですが、微妙に池に向かって傾斜しています。間違った回転のボールは池に向かうように設定しています。
以前のグリーン勾配は5〜6%と大きな傾斜でしたが、それを避けるには段差を持たせるべきです。段差はピン・エリアの比較的平坦な面(設計の専門用語で、デッキ=甲板)を4〜5カ所設けて、それぞれ高さを変えて傾斜で繋ぐから生まれるものです。ピン・エリアに乗ったボールはカップを狙いやすく、違うピン・エリアに乗ったボールはパットのラインが複雑になるはずです。
……グリーン周囲のカラー部分が広いのは?
横山 グリーンの芝を刈る作業で芝刈り機が方向転換するエリアが必要で、約1.8m幅を持たせました。芝管理のしやすさとハザードに落ちるボールを助ける狙いです。ついでに申しますと、グリーン芝種は第4世代の新芝種シャーク≠採用しました。
……仮オープン中は1日の入場者を120名に限定したらしいが。
横山 USGA方式で砂質主体のグリーンにし、4月中旬の播種でしたので、養生期間でした。それにしても今回の工事は1月中旬から7月中旬まで6カ月とはいえ、雨あり記録的な大雪ありで実質は80日間でした。かなり集中的な工事で、工事の進行には気を遺いました。幸い全面クローズにして頂いたので完成に漕ぎ着けました。
多摩丘陵の老舗コースとしてイメージを一新した府中CCは富沢誠造設計の戦略性を復活させ、世界基準に叶うワン・グリーンのコースとして再復活した。工事費を4億円の予算以内に抑えることが出来たのも最高の結果であろう。これで、「多摩丘陵に府中CCあり!」という評判を呼ぶことは間違いないものと思われる。
(文責・西澤忠・名誉協力会員) |